2016年7月11日月曜日

祖父の気持ち(その2)

祖父のキャビネットの中には、もう一枚張り紙があります。
それは『仏祭りを良くすれば、地下より永遠に子孫を守ってやる 接骨老人』とあります。
これも同じ時期に書かれたものでしょうか。
これを最初に見た時、他のどの張り紙よりも強い衝撃を受けたことを、今でも忘れられません。
その衝撃を受けた理由は次のとおりです。

祖母が亡くなってから祖父は、お墓のお供えをかかさず、ずっとひとりで行っていたようです。
私が帰ってきてからは、定期的にシキビを買ってくるように申し付けられ、『墓の花を枯らさんようにせないかん』と、よく言っていました。
そして、私の母のことについて、『広い土地に畑も作っていて花も育てているはずなのに、墓には一本のお供えもしない』と、よく愚痴をこぼしていました。
祖父は自分が亡くなってからの仏祭りのことが、気がかりで仕方なかったのでしょう。
それで残された遺族に、その気持ちを託そうとしたのだと思います。
いわば遺言です。
私はずっとひとりで、その遺言を守ってきました。

母は祖父からすれば、決して良い嫁ではなかったようです。
実際祖父が亡くなってからも、母や父がお墓にお供えをするところを見たことがありません。
何度も両親に祖父の気持ちを伝えましたが、お墓に出向く様子は見られませんでした。
私の父が亡くなってからも、母が仏壇に手を合わせる姿を見たことがありません。
私が毎朝仏さんに、ご飯やお光りをあげています。

それから母は、寝たきりになった私の祖母の、世話をしなかったようです。
下の世話まで、全て父がしていたそうです。
そんな母を、今度は私がひとりで介護をしています。

妻も母と同じです。
私の父が亡くなってからも、お墓や仏壇に手を合わせることが、全くありません。
冷蔵庫にはいつまで経っても消費しない食べ物で溢れ、押し入れには未開封のままの衣類や日用品がいっぱいで、大抵それらのことが口論になる原因でした。
妻は30年近くの間、共に仕事をしながらも、院内の庭掃除をすることは、一度もありませんでした。
そして妻は、母の介護を拒否しました。

残念ながら、祖父の先祖や子孫を思う気持ちを、私には伝えていく相手がいないのです。
祖父もきっとそうだったに違いありません。

(先生さん)

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